成年後見の概要
1. 成年後見制度が必要となる理由
私たちは、契約社会の中で生活しています。
例えば日常の買い物一つ取ってみても、意識こそしていなくても、その一つ一つにおいて売買契約という契約を締結し、その結果物品の売却・購入・代金の授受が行なわれています。
そのように生活の中の活動ほとんどに契約が絡んでおり、それらの契約が有効に成り立つためには、本人の判断能力があることが前提となります。
仮に、判断能力が低下した場合には、その契約を締結していいのかどうかの判断ができないこととなりますし、物事の理解そのものが判然としなくなる場合もあるため、契約の締結を行なうことができず、生活そのものが成り立ち得なくなってくることも考えられます。
例えば、預貯金や不動産などの所有財産の管理・処分も難しくなりますし、施設への入所契約や介護サービスに関する契約の締結も難しくなってきます。
また、その契約が自分にとって有益か否かの判断も難しくなるため、悪質商法や消費者被害にあうケースも考えられます。
ご本人がそのような状態になったときに、ご家族の方がいらっしゃる場合は、事実上、ご家族の方が財産管理や各種契約を替わってなされている場合も見受けられますが、ご本人の判断能力が十分でない以上、ご家族に契約締結等の代理を依頼する委任契約を結ぶこと自体ができなくなるため、厳密に言えば、ご家族の方はなんらの権限が無い状態でご本人の財産を管理・処分していることとなってしまいます。
このような状態での財産管理は、親族間での様々なトラブルや紛争を引き起こす元になることが往々にして考えられますし、契約の相手方からみても、締結した契約が無効とされてしまう可能性が否定できないため、相手方保護の見地からも望ましくないといえるでしょう。
さらに、ご家族がいらっしゃらない、もしくはいらっしゃっても遠方に在住の方しかいらっしゃらないといったお一人暮らしの方の場合を考えてみますと、第三者が本人の変わりに契約や財産管理を行なう必要が生じてきますので、第三者がその契約・管理等を権限をもって行なうことができる枠組みが必要となってきます。
そうした判断能力が不十分となられた方々を支援し、無用なトラブルや紛争を避け、より本人の意向に沿った生活をサポートしていく制度が必要であり、それらを実現するための制度が成年後見制度ということとなります。
2. 成年後見制度の内容
(1)法定後見と任意後見
成年後見制度は、その後見人等の選任方法によって、大きく「法定後見」「任意後見」の2つの内容にわかれます。
「法定後見」
ご本人の判断能力が不十分な状態にある場合に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度となります。
主にご本人の親族の方が、家庭裁判所に申立てをすることとなります。
ご本人の判断能力の状態に応じて、「後見」「保佐」「補助」という3類型に分かれます。
「任意後見」
ご本人の判断能力が十分にある状態のうちに、将来、判断能力が不十分となった場合に備えて、予め自分で選んだ任意後見人となる予定者と後見の内容を事前に決めておく制度となります。
ご本人が、任意後見人となる予定の方と、公正証書で任意後見契約を締結します。
実際に、任意後見人が本人の代理や財産管理等の後見事務を行なうのは、ご本人の判断能力が衰えた時からとなります。
(2)法定後見と任意後見の違い
一番大きな違いは、ご本人の判断能力が「不十分となった」状態で「家庭裁判所が」後見人等を選任するのか、判断能力が「十分ある」状態で「自分が」後見人を選任するのかの違いとなります。
上述のとおり、判断能力が不十分な状態である場合には、自分で後見人を選任し、後見事務を委任することはできなくなりますので、主に親族等の申立により、家庭裁判所が後見人等を選任することとなります。
一般的なケースとして、ご親族がいらっしゃる場合は、そのご親族が申立人となり、併せて後見人の候補者として後見開始申立をするケースが多く見られます。
申立人たるご親族が後見人となっても特段の支障がないと家庭裁判所が判断をした場合は、通常そのご親族が後見人に選任されることとなります。
法定後見の場合は、既にご本人がその意思を表示することが難しくなっていることもあり、選任された後見人等は法律で定められた範囲、もしくは家庭裁判所で認められた範囲で後見事務等を行なうこととなります。
逆に、任意後見の場合は、ご本人に判断能力が十分にある状態で、後見人予定者と後見事務を委任する契約を締結することとなりますので、ご本人自身の希望する方に後見事務を依頼することができますし、後見事務の内容も、よりご本人の希望や意向に沿った決定をすることができることとなります。
3. 法定後見と任意後見の選択
ご本人の判断能力が低下してしまい、ご家族の方などがご本人の財産管理のために成年後見制度の利用を考えるような場合には、法定後見を利用することとなります。
この場合には、ご本人の判断能力の状態に応じて、後見・保佐・補助の類型の中のいずれかを選択して家庭裁判所へ申し立てることとなります。
なお、判断能力が不十分な方が任意後見を利用することは原則困難といえます。
将来、ご自身の判断能力が不十分な状態になったときのために、判断能力が十分な今、予め何らかの備えをしておきたいというような場合には、任意後見を選択することとなります。
なお、判断能力が十分にある方が法定後見を利用することはできません。
4. 成年後見人・任意後見人
ご本人に、ご家族やご親族がいらっしゃる場合は、ご家族・ご親族の中から後見人や任意後見人が選任されることが一般的ですが、下記の場合などは司法書士等の専門家が第三者後見人として選任されているケースが多くみられます。
司法書士が後見人として選任されていることが多いケース
・ ご本人に、ご家族やご親族がいらっしゃらない場合
・ ご本人に、ご家族やご親族がいらっしゃっても遠方で後見業務が事実上難しい場合
・ ご本人に、ご家族やご親族がいらっしゃる場合でも、ご家族・ご親族間で紛争が生じている場合
・ 財産・資産が多く、後見事務量が膨大となる場合
・ 遺産分割や不動産管理・売却等財産管理に法的な事務が必要とされる場合
・ 裁判や紛争が生じている場合もしくは生じそうな場合 等
(注)
一般的な事項を記載いたしました。
詳細や個別事案につきましては司法書士にご相談下さい。