ご自身の意思の尊重やお亡くなりになられた後の財産をめぐる紛争を防ぐため、生前に遺言書を作られる事例が増えてきています。
遺言にはいくつかの種類があり、その種類ごとに厳格に要件が定められていますが、内容の明確化、偽造、変造、隠匿の防止等の観点から、公正証書遺言を作成される方が多くみられます。
遺言には、その種類によってそれぞれ特徴がありますので、ご自身にあった方法を選択していくことが望ましいといえます。
1.遺言の種類
普通方式
(1) 自筆証書遺言(民法968)
(2) 公正証書遺言(民法969)
(3) 秘密証書遺言(民法970)
特別方式
(4) 死亡危急者の遺言(民法976)
(5) 伝染病被隔離者の遺言(民法977)
(6) 在船者の遺言(民法978)
(7) 船舶遭難者の遺言(民法979)
遺言の形式として、上記7種類が民法で規定されています。
一般的に利用されている、普通方式の2種類の特徴を以下に記載いたします。
2. 自筆証書遺言
作成方法
(1) 遺言者が
(2) その全文・日付・氏名を自書し、これに印を押して作成します。(なお、相続財産目録を添付する場合には、その目録部分は自署でなくてもよいこととされました。その際には目録の記載のあるページに署名・捺印が必要となります。)
(3) ページが複数枚にわたる場合は、各ページの間に契印を行っておくことが賢明です。
自筆証書中の文言に加除・変更を加えるには、
(4) 遺言者がその場所を指示して、
(5) これを変更した旨を付記し、これに署名し、
(6) かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力は生じません。
メリット
・ 簡便に作成できる。
デメリット
・ 作成方法を間違うと効力を生じない場合がある。
・ 記載した文言によっては、解釈が難しく後日の判断ができづらくなる可能性がある。
・ 相続人によって、隠匿や改ざんをされる可能性がある。
・ 遺言書の存在を公表していなければ、紛失や相続人が遺言書を見つけられないといった可能性がある。
・ 相続人のうちの一人に書かされたとの疑義が他の相続人から提議されるなど、後日遺言者の遺言能力や遺言意思が問題となり、その有効性が問題視される場合がある。
・ 遺言者がお亡くなりになった後、相続人が家庭裁判所で遺言書の検認手続きを受ける必要が生じる。
※ なお、令和2年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が開始されました。
この制度を利用した場合は、後日の紛失・隠匿・改ざんなどが防止でき、お亡くなりにあった後の家庭裁判所での遺言書の検認も不要となります。
この制度の利用には、法務局に申請書を作成し申請する必要があり、自筆証書遺言の書式も気をつける点がありますので、事前に司法書士等の専門家にご相談いただくことをお薦めいたします。
3. 公正証書遺言
作成方法
(1) 原則遺言者が公証役場に赴き、
(2) 証人2人以上の立会のもと
(3) 公証人に対して遺言の内容を口述し、
(4) それを公証人が確認して、
(5) 公正証書として遺言を作成し、
(6) 再度公証人が読み聞かせ、又は閲覧させ
(7) 遺言者・証人・公証人がこれに署名捺印を行います。
※ なお、口がきけない方・耳が聞こえない方が公正証書によって遺言する場合には、遺言の趣旨を手話・通訳人によって申述するか、又は自書することにより口述に代えて作成することができます。
※ 公証役場に赴くことができない場合(病気・入院など)は、公証人に病院・自宅まで出張してもらうことも可能です。(但し、別途費用が発生します。)
・ 司法書士等に依頼された場合は、司法書士と相談し遺言の内容を決めて行き、不動産登記簿謄本・固定資産税評価証明書・戸籍等の必要な書類も司法書士が取得することが可能です。
・ また、その場合には、証人にも司法書士とその事務員等がなることが多くみられます。
・ 作成された原本が公証役場で保管され、正本と謄本が遺言者に交付されます。
・ 作成後は、信頼のできる方などに公正証書遺言を作成したことを伝えて、その謄本を預けておくことが望ましいといえます。
メリット
・ 公証人等専門家が介在するため、文言等が明確になり、後日の紛争の予防がなされる。
・ 相続人による偽造・変造・隠匿の防止ができる。
・ 遺言者がお亡くなりになった後、家庭裁判所による検認手続きが不要。
デメリット
・ 手間と費用がかかる。
4. 遺言書を作成されておいた方がよいケース
・ ご自身の意思を遺産分割に反映させたいとお考えのケース。
・ 相続人が全くいないケース。
・ 長男等世話をなされたお子さんがお亡くなりの後も、遺言者の世話をなされているお嫁さんがいらっしゃるケース。
・ 子供がおらず、相続人が配偶者と遺言者の兄弟姉妹となるケース
・ 子供・配偶者共にいらっしゃらないケース。
・ 前妻・後妻若しくは前夫・後夫との間にそれぞれお子さんがいらっしゃるケース。
・ 認知されているお子さんがいらっしゃるケース。
・ 内縁の妻もしくは夫がいらっしゃるケース。
・ 相続人の中に行方不明者がいらっしゃるケース。
・ 家業・事業等を継ぐ方に、財産を多く残したいと希望するケース。
・ まだ離婚されていない別居中の配偶者がいらっしゃるケース。
・ お子さんの間で争いが起こりそうなケース。
・ 相続人以外の方に、特に財産を譲りたい人がいらっしゃるケース。 等
詳しくは司法書士等の専門家にご相談下さい。